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雨上がり


「はーやーくー」
「いや、ちょっと待てって、重い!」

 リディアを連れて訪れたのは、懐かしいトロイアの街。青き星一周、なんて豪勢な新婚旅行の最中だ。
 この地には特に所縁のある人物はいなかったが、それゆえ息抜きには都合が良く、旅の途中にも良く寄ったものだった。

 のんびりと長閑な町並みを眺めながら歩く。そのうちぽつり、リディアのふわふわの頭の頂点で、雫が弾けた。

「きゃ」
「うっそお。降ってきた! 走れ走れ!」

 見上げると空は青い。狐の嫁入りだ。リディアが宿屋の扉を押し開けて振り向き、荷物を目一杯に抱えたエッジが、よたよたと扉をくぐった。
 何故旅行というものは日を追うごとに荷物が増えるのだろう。

「おや、懐かしい顔だね」
「覚えてて下さったんですか!」

 受付に立つ恰幅の良い男性は、エッジとリディアの顔を見て表情を崩した。

「もちろん。贔屓にしてもらってたからね。あの後やっと君たちの正体が分かって、家内が大騒ぎだったさ」

 それは、セシル達一行が青き星を救ったことを言っているのだろう。むずむずとくすぐったくなったリディアは、照れたように首を傾いだ。

「他のみなさんはいないのかい」
「新婚旅行さ」

 そりゃまあ、上手くやったな! 主人はまた大きな口を開け笑って、リディアに部屋の鍵を渡した。
 荷物を載せたカートをガラガラとリディアが押す。エッジが押し付けた訳ではない。リディアがやりたがったことを念のため記しておく。部屋に荷物を置いて、二人は一旦腰を下ろした。

「自然が多くていいところだけど、飛空挺だと逆にすんなり来れねえなあ」
「そうだね。ごめん、いっぱい持たせちゃって」

 いいけどよ、小手を放り投げてエッジはベッドへ飛び込んだ。そんなエッジを見やってから、リディアは窓際に体を寄せた。

「止むかなあ」
「止まない雨はないってね」

 どこかで聞いたような台詞を吐くエッジは、大して気に留めていないようだった。
あのパン屋さんや、靴屋さん。行きたいところがあったのに。リディアは嘆息して、もう一度ガラス越しに空を見上げる。

「……あ、そうだ!」
「ん」

 喜色の滲んだリディアの声に、エッジがつと顔を向けた。

「前トロイアに来た時も、雨が降ったことがあったでしょ」
「……ん? ああ、あったけど」

 雨に降られたリディアに傘を持って行ってやった時のことを言っているのだろうか。片恋の気恥ずかしい思い出を掘り返され、エッジは眉を顰めた。
 窓を舐め落ちていく雨粒を眺めながら、リディアは笑った。

「あの時わたしはどうしようもなく寂しくて。そんなわたしの手を取ってくれたのは、やっぱりエッジだった」

 リディアはくるりと向き直ると、エッジの手を取った。

「わたしあのとき、エッジを太陽みたいなひとだとおもったんだ。……だから今度は、わたしが傘を差してあげる! 行こ、エッジ!」

 にかりと笑うリディアを見て、エッジはぱちぱちと目をしばたたかせた。リディアが掴んだ手をぐっと引く。

 どっちが太陽なんだか。

 エッジは隠しもせずに吹き出して、ぷくりと頬を膨らませるリディアへと傘を手渡した。
 二人でいれば、雨だって悪くない。





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